椿山課長の七日間は、死を描くことで生を描き出す本

小説「椿山課長の七日間」は、2002年の9月13日に浅田次郎によって朝日新聞出版から刊行されたファンタジー文学になっております。

もとになっているのは2001年の7月2日から朝日新聞に連載されていた新聞小説になり、単行本化された後の2006年には河野奎太監督によって映画化もされています。

中間管理職ならではのオーバーワークと悲哀を映す

主人公の椿山はとある地方都市にある大手百貨店に勤務する46才の課長さんです。

高校卒業後に就職・結婚を経て郊外にマイホームを購入して、妻の由紀と息子の陽介の3人で平凡な日々の暮らしを送っていました。

務め先のデパート内での人間関係や、年末年始の激務に包まれていく職場の風景描写がリアリティー溢れていて見所になります。

10年以上前の作品になりますが、長時間労働や過労死を始めとするタイムリーな社会問題がふんだんに盛り込まれています。

働く事に対して疑問を抱いている方たちや、毎日のルーティンワークにお疲れ気味な人にはお勧めな本です。

ワンクリックで極楽浄土行き

日頃の不摂生がたたって、接待中の会食の席で気分が悪くなった椿山はそのまま帰らぬ人となってしまいました。

あまりにも突然過ぎる自分自身の死を受け入れることが出来ない椿山の魂は、この世とあの世の中継地点である「中陰役所」にまでたどり着きます。

死後の世界と言っても赤鬼青鬼が跋扈する中で閻魔大王が判決を下すおどろしいイメージはなく、日本中の免許センターのようなお役所仕事的なムードが笑いを誘います。

多く死者たちが「反省ボタン」を押して天国行きを選択するなかでも、未練がましい椿山は拒否して現世への逆送還を希望します。

「生前の関係者に決して自分の正体明かさない」「七日間の期限厳守」など、厳しいお達し下されます。

礼儀正しい少年の雄一と、強面で粗暴な雰囲気を漂わせている武田と連れ立って生き返ります。

46才のメタボリック気味で額の生え際交代が著しい中年男性が、スタイル抜群容姿端麗な女性「和山椿」に変身するシーンがユーモアたっぷりです。

意気揚々と街中へ繰り出していき、思い残しをすっきりと解消するために我が家へと向かっていきます。

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三者三様

一見するとばらばらに見える椿山・雄一・武田のストーリーが、時折奇妙な繋がりを見せていくのが面白いです。

いく先々で明かされいく衝撃的な事実に、椿山は次第に打ちひしがれてしまいます。

果たして我々は家族や大切な恋人を、どこまで理解できているのか考えさせられました。

自らの生命が尽きる寸前まで可愛がっていた子分を心配する武田の姿には、反社会的勢力に所属しながらも非情になりきれない人情味が溢れていました。

実の父親が分からないまま亡くなってしまった雄一が、椿山と仮の親子となって旅を続ける様子が微笑ましいです。

全編を通して大人びた振る舞いを崩すことのなかった雄一が、突如として感情を爆発させる瞬間が圧巻です。

3つの物語が複雑絡み合い、予想外のクライマックスへと収斂していく展開に惹き込まれます。

父から子への魂のキャッチボール

自分の正体を告白することが出来ずに「和山椿」の姿のままで陽介と向かい合った椿山が、親子最期のキャッチボールへと臨む場面は涙なしには読むことが出来ません。

生きている間は仕事にかかりきりで、大切な息子と一緒に過ごすことが出来なかった痛切な後悔の念には胸が痛みました。

人生の中でも、愛する人と一緒に過ごすことが出来る時間はあまりにも少なすぎることを思い知らされました。

生まれた瞬間から死に向かって歩き続けていく人間にとっては、一瞬一瞬を悔いのないように生きることを教えてもらえる1冊になっています。

大切な方との早すぎる別れを経験した人たちにも、是非とも読んで頂きたいと思います。

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