主人公は地方新聞社の記者・悠木

本作の主人公となるのは群馬県で地元紙の新聞記者をしている悠木和雅という男性です。

経験豊富な地元紙の記者で部下からの信頼も厚く、登山を趣味としている悠木はその日、谷川岳一ノ倉沢にある難所・衝立岩にアタックするため、同僚と待ち合わせをして会社を出るところでした。

しかし待ち合わせ場所へ向かおうとしたそのとき、世界での類を見ない未曽有の大事故の一報を受けます。

しかもその事故は地元、群馬県で起こった事故でした。

地元紙の新聞記者として新聞で取り上げるための全権デスクに任命された悠木と地元紙の記者たちは、ここから不眠不休で取材にあたり新聞を発行していくことになります。

そしてほどなくして一緒に山に登るはずだった同僚が病院に運びこまれたという知らせを受けます。

山を愛していた彼が悠木に残した言葉の意味を探しながら、悠木は事故を追いかけることになります。

小説「クライマーズ・ハイ」は1985年に実際に起こった世界最大の航空機事故をもとに、その事故と全力で向き合った新聞記者たちの物語です。

日航機墜落事故

この作品において中心的に描かれていくのが「日航機墜落事故」です。

これは1985年に発生した「日本航空123便墜落事故」がモデルとなっており、墜落現場となった御巣鷹山やその墜落原因と憶測、当時の様子などが忠実に再現されて描かれています。

乗員乗客524人を乗せたジャンボジェット機が群馬県と長野県の県境である御巣鷹山に墜落したこの事故は多くの死傷者を出し、現在においても単独の航空機事故としては史上最悪の事故となっています。

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当時のテレビや新聞でも速報として大々的に報じられ、日本国内にその衝撃が駆け巡りました。

山深い山中が事故現場ということもあり取材はもちろん救出活動のために現場へ行くことすら困難を極め、本作の中でも新聞記者たちは命がけで山を登り取材を試みます。

疲弊しながらやっとの思いでたどり着いた事故現場で目にした光景は、目を覆いたくなるような地獄絵図ともいえる惨状でしたが、それでも体を休める間もなく取材をして即刻下山し取材した内容を会社に伝えるという作業を繰り返すことになります。

当時はまだ携帯電話なども普及しておらず、無線もない地元の新聞社がなんとかして締め切りまでに取材内容を届けようと鬼気迫る様子で奮闘しているところも、本作の見どころのひとつです。

新聞記者としての使命と葛藤

事故現場が壮絶なものであるのと同時に、全権デスクとして会社で指揮をとっている悠木も新聞発行に向けて多くの人間と戦っていくことになります。

毎日発行される新聞はどんなに大きな事件や事故が起こっても当然ながら締め切り時間が伸びるようなことはなく、取材ができる時間は限られています。

また多くの写真や記事が集まっていたとしても掲載できるスペースには限りがあり、未曽有の大事故を報じるうえで何ができるのか、悠木を含め社内の上司や他部署の人間とのぶつかり合いや葛藤が連日のように続くことになります。

多くの情報が錯そうし、正しい情報が求められる中でまだインターネットなどが無かった時代ということもあり、地元紙の発行する新聞による情報を心待ちにしている人も少なくありませんでした。

そんな時代に組織の中の人間として葛藤や対立しを繰り返しながら毎日新聞を作っていく記者たちの姿が克明に描かれています。

とくに社内における登場人物たちの描写はリアルで、彼らのやりとりはまるで筆者がその現場を見てきたかのようです。

日航機墜落事故を通して新聞記者としての使命を燃やす悠木の姿は、働く人間には共感できる部分が少なからずあり、記者として、また人としての矜持のようなものを考えさせられる作品でもあります。

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