甲子園の優勝投手である並木浩二はプロ入りを目指して大学進学していましたが、大学在学中に投手の命でもある肩を痛めてしまいます。

甲子園でチームを優勝に導いた速球が投げられなくなって並木でしたが、新しい変化球「魔球」を完成させることに投手生命を賭けます。

ところが、時代は1940年代、日本は太平洋戦争に突入していきます。

そんな中でも並木は懸命に野球に取り組んでいましたが、日本軍はガダルカナル島の激戦に敗れて以降旗色が悪くなっていました。

昭和18年10月にはそれまで徴兵猶予の対象であった学生も戦争における戦力の対象になります。

これによって並木の学徒出陣が決定します。

並木は大切な人たちと離れて海軍に志願し、似た境遇の若者たちと出会うことになります。

並木たちが海軍に加わってからも戦局は悪化の一途をたどり、海軍では回天という兵器を採用することにしました。

回天とは空軍における特攻隊のような兵器であり、軍人1人が1人乗り用の戦艦に乗って相手の戦艦へと体当たりを仕掛けるというものでした。

つまり、回天は発射されれば相手に打撃を与えられるものの、その船員は確実に命を落としてしまうという極めて残酷な兵器です。

並木を始めとする若者たちは迷いや怒り、悲しみを背負いながらも回天に志願していきます。

彼らを乗せた潜水艦は海へと潜り、出撃の時を待つのでした。

この小説は回天という実際にあった兵器を題材にしています。

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飛行機で相手の基地へと体当たりを行う特攻隊に比べて、回天は知らない方も多いかもしれませんが海軍の最終手段として太平洋戦争末期には用いられていました。

野球選手としての素養を持つ並木という人物が戦争によって未来を失われる危機になってしまう戦争の理不尽さと、その状況下でも決して希望を失わない若者の強さを描いています。

登場人物も個性豊かでそれぞれがバックボーンを背負いながらも、過酷な運命に身を投じていきます。

この小説の1つのポイントが太平洋戦争が末期に近づいていくということです。

もし、太平洋戦争が終われば彼らは回天として特攻することが無くなります。

しかし、一方でこの旗色の中戦争が終わるということは日本の敗北を意味します。海軍に志願した彼らは戦争が終わることを望むことは出来ず、自らが回天として特攻する日を待つしかありません。

特攻は乗組員が一斉に行うのではなく、少しずつ行う仕組みになっています。

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つまり、彼らは自分の仲間が特攻する様子を見ながら自分の番を待つことになります。

「出口のない海」では彼らが自分たちの境遇について話すシーンが度々あります。仲間の強い思いを知りながらも特攻をしていく様子を見届けるしかない彼らは、乗組員の人数が減っていくことに強い悲しみを抱きます。

しかし、表向きは日本軍勝利のために特攻していく仲間を歓迎しなければなりません。

この辛さ、戦争のむなしさがこの小説における大きなテーマになっています。

そして、並木の順番はいつ回ってくるのか読者はただならぬ心境で読み進めることになります。

並木と同様に仲間たちが命を散らしていく様子に強い悲しみを抱くはずです。

読者の方々は太平洋戦争がいつ終わるかをだいたい知っています。

しかし、並木が最終的にどうなってしまうのかは小説や映画を読んだ方しか知りません。

戦争に関する小説はその結末をある程度予測することが可能ですが、この「出口のない海」の結末は予想することが難しいと思います。

最後の最後まで目が離せない展開が続いていきます。

戦争の残酷さと若者の生きたいという強い思いが描かれている作品であり、読み終わると「出口のない海」というタイトルがより重く感じられます。

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