主人公の高木は不動産屋の社長を務めていました。

創業当時から業績は良く、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで会社を拡大していきました。

当時は今のように株式会社のスタイルで経営を行う企業は少なく、銀行から間接金融によって事業を展開する企業がほとんどでした。

そのため、銀行が融資を渋れば一気に企業の規模は落ち着くことになりますが、高木の会社に対して銀行は融資を続けていました。

これだけ見ればまるで高木の経営が良かったかのようですが、実はこの時代どこも銀行からの融資を受けやすいバルプという時代でした。

この時期にたくさんの企業が誕生してはその力を大きく上回るほどの融資を受けていました。

高木の会社もその1つだったのです。

しかし、バブルによって膨らんだ経済は膨らみ続けるわけではありませんでした。

やがてバブルの崩壊という経済への大打撃が発生します。

スポンサーリンク


バブルの波に乗ったこともあってか一時は順風満帆だった不動産事業ですが、バブルの崩壊と共に歯車が狂い始めます。狂い始めた歯車を止める術を持っていなかった高木はあっという間に大量の借金を抱えることとなりました。

バブル崩壊の影響は様々な業種に及んでいますが、中でも不動産事業はその影響を真正面から受けることになっていました。

しかし、高木には大切な妻と子どもがおり、借金地獄を何としてでも早急に解決する必要がありました。

とはいうものの、バブル崩壊の状況で借金を完済することは容易でなく、状況は刻一刻と悪化していきます。

このままでは妻や子どもが借金取りによって危険に晒される恐れがあると考えた高木は彼にとって最終手段を取ることに決めました。

それは自らに多額の保険金をかけた状態で自殺し、保険金で借金を返済するというものです。

しかし、保険は自殺の際には保険金を出さないというのが通例であるため、どうやって死のうかを考えながら歩いているとある一軒の銭湯が見つかります。

それはかつて若いころに妻と高木が一緒に行ったお店でした。

人生最大のピンチにこの銭湯に再び訪れたことは高木と、その家族にとって大きな転機となります。

スポンサーリンク


姫椿の見どころ

あらすじだけを読むとバブル崩壊をきっかけに借金地獄に陥った主人公からどんどん追い込まれていくという悲しい話のようにも思えます。

確かに主人公が借金地獄となり、本気で死に場所を探すという点には悲しい要素もありますが、この物語の本質はそこではありません。

妻との思い出、家族との絆などを中心に描かれるストーリーが見どころです。

銭湯というのがまた大きなポイントになっています。

今は銭湯の数も減っていますが、街の銭湯に子供のころの思い出があるという方も多いのではないでしょうか。

高木にとって銭湯は妻との思い出の場所でした。そこには彼らのことを覚えている方もいるわけです。

この人と人との繋がりから高木がどういった行動をしていくのかに注目して読んでいくとどんどん読み進めてしまいます。

実際にバブル崩壊によって借金地獄に陥ってしまった方は大勢おられます。

中には今でも完済できていないという方もおられるかもしれません。そ

れらの事情からこの物語の背景には一定のリアリティがあります。

このリアリティのある背景の中から、厳しいながらも希望を見出していくのが赤川次郎の真骨頂でもあります。

この物語にはその要素が非常にたくさん詰め込まれていました。タイトルの「姫椿」ですがこのあらすじの段階では何のことかほとんど分かりません。

最終的にこの言葉が何を意味しているのかについても注目して読んでいくと面白いかもしれません。

短編集なので長くはありませんが、心に残りやすいストーリーになっています。

スポンサーリンク