小説「第三の時効」は、2003年の2月5日に横山秀夫によって集英社から刊行されたミステリー文学になっております。

もとになっているのは「小説すばる」に連載されていた6つの短編小説になり、第16回山本周五郎賞候補に選ばれた後の2002年には渡辺謙の主演によってドラマもされています。

現場にスポットライトを当てる

横山秀夫の警察小説の特徴としては、事件を捜査する花形のポジションではなく警務課というどちらかというと地味な役回りに焦点を当てているスタイルです。

本作品の中では、意外にも第一線で活躍する刑事たちを主人公に設定しています。

F県警という架空の地方警察組織内に舞い込む事件が、リアリティー溢れるタッチで映し出されていきます。

笑う容疑者対笑わない刑事

取り調べ室での供述を法廷で一転させた被疑者の心の闇を浮かび上がらせていく「沈黙のアリバイ」から、この連作短編集は幕を開けていきます。

ある交通事故によって笑顔を見せなくなった「青鬼」の異名を持つ刑事・朽木泰正が、不敵な笑みを浮かべる強盗殺人事件の容疑者に翻弄されていきます。

現在進行形の事件に打ち込んでいくうちに、過去に封印していた自分自身のトラウマと向き合っていく姿が感動的です。

迫りくるタイムリミット

殺人事件の時効成立を目前にして被害者宅で密かに張り込みを続ける刑事たちを描く、表題作も傑作です。

15年間逃走生活を続けてきた殺人事件の容疑者と、被害者の妻との奇妙な関係性に惹き込まれていきます。

犯人が国外に出た場合はその期間中だけ時効の進行が停止する、「第二の時効」が大きな伏線になります。

更には現場の捜査員たちにさえもひた隠しにされていた、「第三の時効」が見え隠れしていきます。

容赦なく関係者を追い立てて流れていく時間の果てに待ち受ける、鮮やかなどんでん返しに驚かされます。

三つ巴の争い

刑事たちの生々しい覇権争いに迫っていく、「囚人のジレンマ」には味わい深いものがありました。

捜査一課1班の朽木に2班の村瀬、3班の楠見など横山作品ではお馴染みのメンバーが勢揃いします。

公安からやってきた冷血サイボーグのような楠見と、愚直で動物的な勘を駆使して事件に挑んでいく村瀬とのコントラストが面白かったです。

1人1人は優秀な捜査員ながらも、お互いへの反感から足を引っ張り合ってしまう様子が印象的でした。

3つの殺人事件が同時に進行していく中で、3人の間に芽生え始めていく敵対とも友情とも異なる不思議な絆には心温まるものがありました。

フィナーレを飾る

平凡な殺人事件の予想外な顛末をテーマにした「モノクロームの反転」は、この本を締めくくるのにはふさわしい作品です。

県内で発生した一家惨殺事件から、思わぬ騒動が巻き起こっていきます。

夫婦ばかりではなく、無抵抗な5才の男の子に降りかかっていく災難には胸が痛みました。

ありふれた家族に隠されている秘密や、静かな田舎町に潜んでいる住民たちの複雑に絡み合っていく思惑がスリリングです。

犯人が不明のまま被害者一家の葬儀が粛々と行われていく中で、捜査を担当する村瀬が意外な方法で真実をあぶりだすシーンが圧巻です。

警察小説の第一人者からの挑戦状

事件を解決すべく奮闘する個性豊かな刑事たちに、何時しか深く感情移入してしまいます。

完全無欠な名探偵としてではなく、家族を抱えて悩み苦しんでいるひとりの人間としての弱さも伝わってきました。

6つのタイトルにはそれぞれ推理小説の王道とも言える、「アリバイ」や「密室」といったキーワードが散りばめられています。

著者から古今東西の作品を読破したミステリーファンへの、直球勝負の意気込みを感じることが出来ます。

ありきたりな犯人捜しや使い古されたトリックに物足りないものを感じている方たちには、是非とも読んで頂きたい1冊になっています。

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