「球体の蛇」はミステリーで高く評価を受けている道尾秀介によって書かれた小説です。

道尾秀介は2011年に「月と蟹」で直木賞を受賞しました。

登場人物達のエピソードや行動が積み重なっていき、一つの風景を生み出す小説を書いています。

その構成力はミステリーでとりわけ発揮されています。

それゆえミステリー作家と思われがちですが、様々なジャンルの作品を発表しています。

物悲しい日常の風景や、人物描写、中でも特に若者や子供の心情の描き方の評価が高いです。

若さや幼さゆえの割り切ることのできない身勝手さを、優しさと調和させることによって登場人物達に人間味を与えます。

また小説だから浮かび上がる景色の美しさが特徴的です。

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「球体の蛇」のあらすじ

主人公の友彦は、家族とは疎遠の17歳です。

幼馴染であるナオと、ナオの父親の乙太郎さんのところで暮らしています。

ナオにはかつてお姉さんのサヨがいました。

友彦は死んでしまったサヨのことを忘れられませんでした。

しかしそのことについて誰かに詳しく話したりしたことはありませんでした。

そんな時、サヨにそっくりな智子のことを知ります。

智子のことが気になって仕方ない友彦は、悪いこととはわかっていながら智子のいる家に頻繁に忍び込み、一方的に智子のことを知るようになります。

智子のことは気になるけれど、友彦自身彼女に対する気持ちがなんなのかはっきりとはわかっていませんでした。

サヨにそっくりであるから気になっているのか、それとも違う気持ちなのか、友彦にも判断がつきませんでした。

しかし友彦はその一方的な感情を勝手に抱いているだけでいいと思っていました。

そんなある日、友彦と智子の関係が変わってしまうような出来事が起こってしまうのです。

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「球体の蛇」のみどころ

「球体の蛇」は一読すると、成長過程で迷いによって傷ついていく若者の一ページを描いた普遍的な青春小説にも見えます。

道尾秀介のミステリーで遺憾無く発揮されるどんでん返しや叙述トリックで見られるような緻密な構成の小説です。

日常の風景が重なり、登場人物たちの言葉や、振る舞いの一つ一つが、一枚の風景を見せてくれます。

主人公友彦の優しさゆえの甘さや、若さゆえの青さ、そういったところから生まれる行動が、周囲の人々に影響を与えます。

友彦を心配する幼馴染のナオ、ふとしたきっかけから関わるようになった智子、そして家族と疎遠な友彦を家族のように受け入れてくれる乙太郎、みな友彦への優しさを持っています。

しかしお互いの考える優しさにに違いがあり、すれ違ってしまいます。

同じものを見ているにもかかわらず、違う形に見えている彼らの誤差が、物語を引っ張り、波乱を持たせます。

友彦にもナオにも乙太郎にもその影を落としているサヨの死。

彼ら3人、同じ死を体験しながら、受け止めた形は同じではなく、今も彼らの胸にある後悔と悲しみは、彼ら一人一人個別のものなのです。

同じものを見ても、同じことを体験しても、同じ結論を持つことはできません。

友彦の一人称で語られるその物語は、決して明るい世界には見えません。

けれどもその世界が、誰の目を通して見るのかで全く違う姿に変えてしまうことはあるのです。

誰にでもありうる若者の痛々しいまでの繊細さ、それは良いものにも悪いものにもなり得ます。

そういった若者の姿、痛々しさや辛さ、すれ違いと迷いから友彦の世界が生まれていきます。

友彦が全て望んだ形ではなかったとしても、それは彼の見た世界でしかないのです。

その世界が、ただ辛い世界ではなく、それは美しい世界であるという余韻を持たせる物語になっています。

全てのつながりが今を生むのです。

一度読みおわって、彼らの考えがわかれば、彼らの行動をもう一度見たくなります。

そうすれば友彦にも読者にも同じ風景が違った形で見えてくる、そんな物語です。

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