小説「漁港の肉子ちゃん」は、2011年の8月31日に西加奈子によって幻冬舎から刊行された青春文学になっております。

文芸雑誌「パピルス」に2011年4月号から8月号まで連載されていた作品が、加筆修正されて単行本化されたものになります。

イランの首都であるテヘランで生まれて小学生までエジプトのカイロで育ったグローバルな経歴を持つ著者ですが、かつて大阪に在住していた頃の体験が本作品の中には息づいています。

小学5年生の女の子である見須子喜久子と、その母親の菊子との間で関西弁を駆使して繰り広げられる会話のシーンが生き生きとして面白いです。

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大人になれない母と大人びた娘

菊子と喜久子の親子は以前から暮らしていた東京都内から、北陸地方のとある漁港町へと移り住んできました。

喜久子は151センチの身長と67キロのふくよかな体型から、「肉子ちゃん」というニックネームで隣り近所の住民からは親しまれています。

これまでの人生で出会ってきた男たちは、カジノのディーラーから「自称小説家」までバラエティーに富んでいます。

年齢層から職種まで全くのバラバラですが、皆さん生活力がなく肉子ちゃんに依存してしまうところだけは一貫しています。

あっさりと騙されて傷つけられては懲りずに新しいタイプの恋人を求める母親に対して、醒めた眼差しを注いでいる喜久子の姿が印象的でした。

港町でもお肉を食べる

肉子ちゃんの職場は、魚が美味しいことで有名な港町にひっそりと佇んでいる焼肉屋さん「うをがし」です。

いくら水揚げされたばかりの新鮮な味わいのお刺身を食べることができるとしても、たまにはお肉が欲しくなってしまう気持ちには共感出来ました。

全国展開するビジネスチェーンのお店にはない、アットホームな店内や客席の風景には心温まるものがありました。

ご主人のサスケさんは訳ありな肉子ちゃんたちを深く詮索することもなく、店の裏にある小さな平屋に格安で住まわせながら何かと面倒を見てくれます。

お客さんと肉子ちゃんの間で巻き起こっていく、数多くのハプニングがユーモアセンスたっぷりとしていて見所になります。

地元の漁師から思わせぶりな態度やセリフを投げかけられては、年甲斐もなくときめいてしまう肉子ちゃんが笑いを誘います。

学校帰りの喜久子もお店の手伝いに打ち込み、夕食代わりの賄いを頂きながら常連さんたちから可愛がってもらう場面が微笑ましかったです。

お互いが匿名性の高い存在である都会とは異なり、単に食事をする場所としてばかりではなく地域コミュニティーとしての役割を担っていることが伝わってきました。

少女から女性へ

東京からの転校生であり母親に似ず容姿端麗な喜久子は、学校でも自然に注目を集めていきます。

クラスメイトとの交際や男子児童とのコミュニケーションなどの、今時の小学生の学園生活の描写がリアリティー溢れていました。

思春期を迎えようとして揺れ動くヒロインの微妙な心境が、繊細なタッチで映し出されていくのが良かったです。

いつまでも続くと思われていた純真無垢な少女の時代が終わりを告げる、一抹の寂しさも感じました。

過去を乗り越えていくふたり

関西の下町で生まれて日本国内を転々としていたという肉子ちゃんは自分自身の家族については、娘の喜久子にさえも多くを語ることはありません。

息つく暇もなく巻き起こっていく予想外の事件の中で、次第に肉子ちゃんに隠されている哀しい過去が明らかになっていきます。

良い事も悪い事も全てをありのままに受け入れながら、前に向かって進み続けていく肉子ちゃんと喜久子の生きざまには勇気をもらうことが出来ました。

家族や学校のクラスメイトを始めとする身近な人との関係性に思い悩んでいる方たちには、是非とも手に取って頂きたいです。

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