小説「世界から猫が消えたなら」は、2012年の10月25日に川村元気によってマガジンハウスから刊行されたファンタジー文学になっております。

「電車男」や「おおかみこどもの雨と雪」などの数多くのヒット作品を生み出し続けてきた映画プロデューサーが、初めての小説にチャレンジした1冊になります。

発表後にはベストセラーになり本屋大賞にもノミネートされ、2016年には永井聡監督によって映像化もされています。

ある日突然に訪れる

主人公である30才の郵便配達人「僕」の静かなモノローグから、本作品は幕が上がっていきます。

病院嫌いで滅多に医者にかからない主人公は、長引く頭痛に悩まされてしぶしぶながらも診察を受けました。

そこで告げられた病名は「脳腫瘍」で余命はたったの1週間であることが判明します。

泣き叫ぶこともなく取り乱すこともなく、診察室を立ち去りただただ町をさ迷いあるく主人公の姿が印象的です。

ようやく自宅にたどり着いて玄関で意識を失った主人公の前には、気が付くと自分にそっくりな青年が立っていました。

何かを得るためには何かを失う

派手なアロハシャツに軽薄な口調の青年は、自らの正体を「悪魔」と名乗りました。

全くの同じルックスながらもまるっきり違う明るい性格の悪魔の登場によって、重く暗いテーマを扱っているストーリーもすんなりと受け入れることが出来ました。

お菓子には目がなく、某有名メーカーのチョコレートスナックをぽりぽりとかじる様子がユーモアセンスたっぷりとしていました。

絶望していた主人公に対して、世界から何かひとつを消すことによって1日だけ寿命を伸ばす悪魔の取り引きを持ち掛けてきます。

悩んだ末に主人公が消した1番最初のものは、「電話」でした。

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失ってみないと分からない

最後に1回だけ電話を使うことを許された主人公は、携帯電話のアドレス帳の膨大なデータからたったひとりを選ぶことになりました。

かつての恋人に最後の挨拶をするはずが、電話では上手く伝えることが出来ない様子が皮肉でした。

本当に大事なメッセージはメールや電話ではなく、顔と顔を向き合わせて直接届けなければならないことを考えさせられました。

電話を消したことによって、人と人との繋がりを実感する主人公には心温まるものがありました。

昔の恋人の目を通して

7年ぶりの彼女との再会と思い出話の中で、主人公は自分の生きてきた意味を確かめようとします。

思っていたよりも低かった彼女の評価を聞いて、すっかり落ち込んでしまうシーンが笑いを誘います。

その一方では彼女の好きな食べ物や飲み物のことをすっかり忘れてしまった、主人公の冷淡な一面も伝わってきます。

愛する人と一緒にいることが出来る時間はあまりにも短いことを痛感する場面でもあり、いつか来る別れのために悔いのないようにお互いを理解し合う必要性を感じました。

最期に残るもの

久しぶりの彼女との触れ合いの中で、死を受け入れていたはずの主人公の内面に微妙な変化が沸いていきます。

彼女が大好きだった映画や、時計屋さんを営んでいた父親が人一倍の思い入れを込めていた時計でさえもためらうことなく消していきます。

生きることへの執着が沸いていく主人公にも、どうしても消すことが出来ないのが「猫」です。

ある時突然に悪魔の力を借りて喋り出した飼い猫のキャベツによって、今は亡き母親の面影を思い出していきます。

主人公のいない世界に絶望したというキャベツは、猫を消して長生きすることを強く提案します。

揺れ動く中でも主人公が下した最期の決断には胸を打たれました。

天使のような悪魔

悪魔に魂を売り渡すことによって、人間らしい感情へと目覚めていく主人公の内面の変化が見所です。

家族や恋人を始めとする大切な人との別れを乗り越えてきた方たちには、是非とも手に取って頂きたい本だと思います。

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